なんでウチはキュービクル必要なの?

「他の店は付けてないのに、なぜうちだけ?」「そんなに電気使ってないのに必要?」
キュービクルの設置を業者から勧められたとき、誰もが一度は感じる疑問です。
一見すると、どこにでもありそうな飲食店や店舗が「キュービクルが必要」と言われる一方、同じ規模の別の店は何も言われない。
その違いは一体何なのでしょうか?

「なぜうちの施設にだけキュービクルが必要とされるのか?」という問いに対し、電力契約・設備構成・建物仕様の観点から解説します。

原因は「契約電力」だけじゃない

よく「50kWを超えると高圧契約になり、キュービクルが必要」という話を聞きます。
これは基本的には正しいです。
ですが、実際には使用電力の総量だけでなく、“どう使うか”も重要な判断基準になります。

つまり、同じ電力使用量でも、

  • 同時にどのくらいの機器を使うか
  • どんな設備(電圧・動力)があるか
  • 建物の構造がどうなっているか

によって、キュービクルの要否が変わってくるということです。

「あなたの店舗は必要」と言われる主なケース

電気を使う機器の“質”が重い

たとえばパン屋や飲食店の場合、次のような業務用設備が多く導入されています:

  • 業務用オーブン(15〜20kW)
  • 冷蔵・冷凍ストッカー(5〜10kW)
  • ミキサー、食洗機、アイスメーカー
  • 大型エアコン(動力用)

これらを同時に使うと、一気に契約電力が50kWを超えることがあり、キュービクルが必須になります。

特に注意が必要なのは、「調理・製造工程の都合で機器を同時に動かさざるを得ない」場合。
この“同時使用”の実態が、契約電力を押し上げる最大要因になります。

ビル全体で契約している(共用設備含む)

たとえば、以下のような建物では「自分のテナント単体では50kW未満」でも、ビル全体の電力を合算すると高圧契約となり、結果としてキュービクルが必要になることがあります。

  • 商業テナントビル
  • オフィス複合ビル
  • 飲食ビル(1フロアに複数店舗)

この場合、自分の事業形態にかかわらず、建物全体としてキュービクルが必要になるため、「うちだけ」という感覚になってしまうのです。

将来的な拡張・余裕を見込んで契約

現時点では50kWに届かなくても、以下のような理由であえて高圧契約(キュービクル設置)を選ぶケースもあります:

  • 将来的に機器を増設予定
  • 別店舗との電力一括管理をしたい
  • 電気料金単価を下げたい(高圧の方が安い)

つまり、「今は必要なくても、将来を見据えて設備導入する」という経営判断によるものです。

電力会社・設計側の判断で指定されることも

受電設備の設計は、電力会社・建築設計事務所・電気工事会社などの連携で決まります。
その中で、次のような理由からキュービクルありきの設計がされることがあります

  • 建物構造上、低圧分電盤が分離できない
  • 電柱からの距離や電圧降下の制約
  • 法令・条例(防火地区等)の制限
  • 配線経路の簡素化を目的とした設計判断

この場合、「うちの店舗ではなく、建物の構造上の都合」でキュービクル設置が求められているというケースも多く見られます。

ケーススタディ:実際に「必要」と判断された例

例①:ベーカリーカフェ(路面2階建て、延床90㎡)

  • 設備:大型オーブン2台、ミキサー、空調3台、照明20台
  • 計算上の契約電力:63kW(=高圧契約)

→ キュービクルを建物裏に設置。リース契約で初期費用を抑えた。

例②:小型パン屋(30㎡、1フロア)

  • 設備:デッキオーブン1台、冷蔵庫1台、照明+エアコン
  • 計算上の契約電力:28kW(=低圧契約)

→ 電子ブレーカー導入により、50kW未満を維持。キュービクル不要で運用中。

まとめ

「なぜうちだけキュービクルが必要なのか?」という疑問には、複数の視点からの答えがあります。

  • 今、同時に使う機器が多すぎるから
  • 建物全体で契約電力が大きいから
  • 設計上、安全性や拡張性を考慮したから
  • 電力単価の安さや、経営戦略を優先したから

大切なのは、「他と比べて損をしている」と考えるのではなく、自分の事業に合った電力インフラを設計する視点を持つことです。

その上で、「本当に必要か?」「回避できる方法はあるか?」を専門家と一緒に考えることが、コストと安心を両立する最適な一手につながります。