キュービクルが「ある」と何が違うの?
お店やビルを設計する中で、「キュービクルを設置しましょう」と言われることがあります。
しかし、一般の経営者や施主にとっては、「なくても電気が使えるんじゃないの?」「高いお金を払ってまで、わざわざ設置する意味は?」と感じる方も多いのではないでしょうか。
実はこのキュービクル、“ある”と“ない”では、電気の使い方も経営上の選択肢も大きく異なってきます。本記事では、「キュービクルがあると何が違うのか」を、電気契約・運用・コスト・設備面から整理して解説します。
「電気の入口」が違う
まず、電力会社から供給される電気には、大きく分けて2つのルートがあります。
電力会社が家庭や小規模店舗向けにあらかじめ電圧を下げた状態で供給
電力会社が高い電圧のまま供給し、建物側で必要な電圧に変換
この高圧で受けた電気を変圧し、安全に使えるようにするのが、キュービクルの役割です。
つまり、キュービクルがある建物は高圧受電で、ない建物は低圧受電という根本的な違いがあるのです。
キュービクルがある=電気を“自前で管理”
キュービクルを設置して高圧契約をすると、電力会社から送られてくるのは6,600Vという非常に高い電圧の電気です。これは直接は使えません。
そのため、建物側(つまり自社)で変圧器を使い、200Vや100Vといった機器が使える電圧に変える必要があります。この装置一式がキュービクルです。
この“電気を扱う責任”が自社に移ることで、以下のような運用上の違いが生まれます。
比較項目 | キュービクル「あり」 | キュービクル「なし」 |
---|---|---|
電圧 | 高圧(6.6kV)受電 → 自社で変圧 | 低圧(200V/100V)受電 |
設備責任者 | 自社に電気主任技術者が必要(外部委託可) | 不要 |
電気契約 | 高圧契約(単価が安い) | 低圧契約(単価が高い) |
初期費用 | 高額(数百万円〜) | ほぼ不要 |
メンテナンス | 年次点検が義務 | 基本的に不要 |
供給電力の「上限」が違う
キュービクルを導入すれば、契約電力は50kW以上で設定できます。これは、パン屋に例えれば、オーブン・冷蔵庫・ミキサー・エアコンを一斉に稼働しても落ちないだけの電気容量を確保できるということです。
逆にキュービクルなし=低圧契約では、同時使用できる機器に限りがあり、契約電力を超えるとブレーカーが落ちるリスクが高くなります。
コストの「計算式」が違う
高圧契約と低圧契約では、電気料金の単価構造が異なります。
高圧契約
「基本料金+従量料金」で構成され、単価は低めだが、基本料金は契約電力に比例して高くなる
低圧契約
「従量課金型」が主で、単価は高めだが、基本料金は抑えられる
そのため、毎月の使用量が多い業種では、高圧契約(=キュービクルあり)の方がランニングコストは安くなるケースが多いのです。
将来の事業拡大にも対応しやすい
キュービクルがあると、電力容量に余裕を持って設定できるため、今後の設備追加やフロア増設にも柔軟に対応できます。
例えば、
- 新しく冷蔵ショーケースを増やしたい
- 焼き場のオーブンをもう1台導入したい
- カフェスペースにエアコンを新設したい
こういった拡張が、キュービクルなしだとブレーカー容量の上限で制限されることで後からキュービクルを付けることになることもあります。
キュービクルがあると「業務が止まらない」
高圧設備であるキュービクルは、遮断器や避雷器などの保護装置がしっかり組み込まれており、安定稼働が大きなメリットです。
- 電圧変動があっても影響が少ない
- 雷サージなどの異常電圧を吸収できる
- 部分的な設備トラブルでも全館停電になりにくい
結果として、製造業や飲食業のように“機器を止められない”業種にとっては、設備の安定稼働を支える強力な土台となるのです。
注意点:キュービクルの設置が「最善」とは限らない
キュービクルにもデメリットはあります。
- 初期費用が数百万円〜
- 年間数十万円の保守費用
- 屋外設置スペースの確保が必要
- 定期点検・法令遵守の手間
そのため、「規模の割に電力をあまり使わない業種」や「営業時間が短く消費電力が安定している業態」では、キュービクルなしの低圧契約の方がメリットが大きいケースも多くあります。
まとめ
キュービクルを設置するということは、単に装置を付けるというだけでなく、電力契約の自由度・設備拡張の余地・コスト設計の柔軟性の面でもメリットがあります。
- 電気が止まる不安を減らしたい
- 今後の増設も視野に入れている
- 電気代を抑えつつ運用したい